.

.





頭が割れそうに痛い。

またあの感覚だ。真っ黒いものが押し寄せてきて思考を奪われ支配される。

自分が自分じゃなくなるような。天沢 雪という人間の輪郭すらわからなくさせるような。

狂っていく心が制御できない──。



「雪様。本日は19時より商社の役員の方々との会食がございます。家に到着次第すぐにご準備をお願いいたします」


傍らで話す中城の声も、どこか遠くで聞いているような感覚だった。



「雪様、聞いているのですか」

「………」

「雪様」


肩を掴んでくる手を振り払う。



「………もいい」

「え?」

「もう全部どーでもいい……」



杏実がおれから離れていく。

はっきりとした拒絶だった。


──『今の雪くんは、わたしが好きだった“雪くん”じゃない……。もう、一緒にいたくない……っ』


……そんなの


「っ、……──────」