中二の夏。
巴から、天沢 雪を潰すように言われた。
“あの男のガードは固いから、まずは外堀から埋めていけ。”
つまり、彼女である加藤杏実を利用しろ……と。
世間の噂通り、残念ながら俺にも極悪人の血が流れているらしく
命令されれば、どんなにむごいことだって平気でやった。
だからそのときも、加藤杏実に対して1ミリの罪悪感さえ持ち合わせていなかった。
たかが女。
俺が直接動くまでもないと思った。
テキトウな人間を、加藤杏実の周りにテキトウに泳がせて報告させる。
………つもりが。
得られた情報は結局、天沢が常に加藤杏実にべったりで、相当ご執心ということだけ。
天沢が近くにいないときも側近の中城という男が見張っていて近づくことができないという。
仕方がないから、自ら近づいた。
天沢の女だと意識した上で、初めて彼女を見たときの感想は
──────「普通」。