桃花が玲人の彼女だと桃花の友達たちが触れ回った結果、徐々にあかねへのやっかみや逆恨みによる意地悪はなくなっていった。元の平穏な日々が戻りつつあって、あかねは安堵に胸をなでおろしている。

「高橋さん、本当に暁くんとは何ともなかったのね……」

以前あかねを屋上に連れ出したグループのうちの一人が言った。

「だ、だから最初っからそう言ってたじゃない。玲人くんのようなハイスペックな御仁が、私みたいな凡人に敬慕するわけないでしょ!」

あはは、と笑うあかねに、なるほど、とその子は頷く。

「確かに暁くんの隣に立ち並ぶには、いかにも凡人よね、あなた。そう思うと、諸永さんとは美男美女で、悔しいけどまあ認めざるを得ないわ」

そうでしょそうでしょ! あかねは二人のことが認められつつあることに好感触を感じていた。

「玲人くんは、転入したての時に、鋭繋ながら私がフォローをさせて頂いたので、その時の温情を恋愛感情だと勘違いしただけですよ! ありがちなやつ!!」

あははと笑って教室に入る。
今日も平穏な一日の始まりだ。既に桃花と玲人は登校しており、教室の扉の所で話し込んでいる。
桃花が綺麗に笑う。玲人も微笑んでる。あかねは二人を見守りながら、彼らが居ない方の扉を使って教室に入った。
世界が出来上がって来た二人のことに外野がなんだかんだと言わない方がいいと、光輝にくぎを刺されたからだ。あかねはその通りに行動し、結果、今までと比べると玲人と喋る機会は減った。
でも、その方がいいと思う。恋愛中なら圧倒的に、クラスメイト<彼女、なのだと思うし、あかねも折角恨みを買わなくなったんだから、自ら進んで藪の中に突っ込んでいく必要はない。

「…………」

ちょっと……、ちょっと、寂しい気持ちもするけど、この気持ちは未だあかねの心にくすぶっている『アイドルの暁玲人』を取られるような気分になってるだけのことなのだ。

「玲人くん」

みんなが呼ぶ、その名前。でも玲人にとって特別な響きを持つのは、きっと彼女の高い声に載せたその言葉になっていくはずだ。

桃花が玲人を呼ぶ。玲人が微笑みかえす。その何気ない光景に、あかねは何故か心がざわつくのを必死で抑え込んでいた。
必要ない。アイドル時代を思い浮かべての感情は、今の玲人には必要ない。玲人は既に望んだ新しい生活を手に入れている。あかねこそが、『玲人の卒業』という大事変に対応しなければならない。こんな感情なんて要らない。

(そう!! 推しのソーハピースクールライスに私の感情なんて必要ないのよ!!)

二人を見るたびにそう思うけど、何度も何度も心の中で繰り返してしまうのだった。