光るライトに負けないキラキラの笑顔。


AパートからBパートへ移る時のフォーメーションの美しさ。


流れるように振り動かされる指先の軌跡に魅了される。


翻る衣装の裾に軽やかな風を感じる。


何より、圧倒的顔面顔面顔面!!!




軽快なポップスと共にタブレットの中で踊り謳う至高のアイドル。

その歌とパフォーマンスに食い入るように見入っていたあかねの耳に、能天気な声が聞こえた。



「あかね~、宿題写させて」


「だーっ!! 光輝、いま忙しいのっ! 私と玲人くんの逢瀬を邪魔しないでっ!!」


ドアをノックして部屋に入って来た幼馴染みの方なんて見向きもせずに、あかねはタブレットの画面を食い入るように見つめ続けていた。


画面には煌びやかなライトとその中で舞い踊る五人のアイドル達、あかねの最推しである『FaceToFace』のデビュー5周年の記念ライブの配信公演の真っ最中だ。

一秒たりとも目を逸らすわけにはいかなかった。


(あ~~~、本当に奇跡の五人だわ……。顔、性格、身長、歌声、ダンス。全てにおいてバランスが良くて、パーフェクト。尊みの極地。これ以上のアイドルは居ないでしょ!!)

そんなことを思いながら、鼻息荒く画面を見つめる。


理想はライブ会場へ行くことだが、バイトが禁止の高校生活ではそんな贅沢は出来ない。


『FTF』が所属するアイドル事務所は若いファンが多いことを知っていて、だからこうやって配信ライブを続けてくれている(社長! 圧倒的感謝!!)。


プロダクションの社長を拝む勢いで東京方面に神棚を設えたいくらいだ。




(はーーーー、デビュー曲をここで持ってくるか~。今演出も最高だな!? 過去映像と共に現在の推しを堪能できる演出、最高かっ!!!)




最推し五人を前にして、あかねの萌え駄々洩れの脳内台詞は留まらない。



ってか、画面越しですらこの尊みなのだから、会場で彼らを見てしまったらもう卒倒ものなのでは!?!? 

私、生きて帰れる!?!? 

いや、いっそのこと会場で卒倒死でも薔薇色の人生のまま死ねるなら本望だな!?!?



特にあかねの推しなのが、センターで歌い踊っている暁玲人だ。


涼やかな顔に浮かぶ王子スマイルは数多の女子のハートを射抜き、しなやかに伸びる体は少年と青年の狭間である年齢独徳の体つきで魅惑的だ。


彼が画面に向けて笑顔を見せるだけであかねの心臓はバクバクと疾走し、ターンで飛び散る汗が映れば画面越し(そこ)に生きている証を覚えて失神しそうになる。


いっそのこと、誰かが作り出した精巧で美しい人形(アンドロイド)だ、と言われた方が納得できるほど、玲人はアイドルとして完璧なのだ。


これで惚れるなという方がおかしい。




(っていうか、玲人くんを知ってて玲人くんに惚れない人が居る!? その人視力ある!?!? 近眼でもあのオーラの輝きは隠せないよ!?!?)



あかねは彼のデビューの前からのファンであり、山ほどいる彼のファンの一部だった。

だからネットで見る配信は、常にファン同士で繋がりながら視聴している。

現に今も、画面越しの玲人の可愛さ、美しさ、男っぽさ、少年らしさ、と言った全ての彼の要素について、萌え語りを繰り広げている。



『ああっ、玲人くん、その角度の流し目ヤバい!』

『指の振り、美しすぎるわ!』

『もうおぐしからして常人と違う!!』


等々。萌え語りの友からはあかねと同じ熱量の反応が帰ってきていて、あかねとしても存分に推しを愛でることが出来ていた。



「でもまだ五周年だもんね! これから十年、十五年、二十年、って続いて行くんだと思ったら、どんどん大人になってく玲人くんを追いかけられるのは、ファンの幸せの極みだよね!!」


『うん、ホントにそうだね!』



きゃっきゃとチャットで話ながら配信を食い入るように見つめる。

そして最後のバラードが終わり、メンバー一人一人からのファンへのメッセージが語られる。

玲人が一歩歩み出て、カメラに輝く笑顔を向けた。



『今日まで僕を応援してくれたファンの皆に伝えたいことがあります。僕は今日、この公演をもって……、『FaceToFace』を引退します。五年間、がむしゃらに走り続けてきた。……僕は、普通の高校生になります』



(えっ?)



何かの聞き間違いだろうか? 今日は4月1日……? エイプリルフールだっただろうか?


あかねはカレンダーを見た。今日はライブ配信最終日の、8月30日。



「えっ?」



画面の中の玲人は大きな花束を受け取り、そのまま他のメンバーに肩を抱かれながら笑っている。

最後にもう一度マイクを渡された玲人は、メンバーに囲まれたまま、晴れやかな顔でカメラに向き直った。



『僕が出会った仲間たち、そして『FaceToFace』を通して出会ったカメラの向こうの君たちとの出会いが、巡り巡って、僕やみんなにとって素晴らしい人生を彩る実りであってくれたら嬉しいです』



――――『この出会いが、僕にとって、君にとって、巡り巡ってお互いの人生を豊かに彩るものであったら嬉しいな』



玲人が事あるごとに、ファンに向けて言っていた言葉。

事あるごとに聞いて、推しの素晴らしさを実感していたその言葉を今画面越しに聞いても、全く頭に入って来ない。



(えっ?)



あまりに突然の展開に、脳みそがついて行かないまま、ライブ配信は終わった。

ふとチャット画面を見ると、其処には現実を受け止めた萌え語り友たちの阿鼻叫喚の発言が飛び交っていた。


(…………えっ??????)


そんな中、あかねは全く現実を受け入れられないでいた。

ぽかんと事務所のロゴマークに切り替わった配信画面を見つめ続け、最後までチャットの阿鼻叫喚発言に入っていけなかった……。