普通に考えれば、平民のクリスティーヌ様が王妃になんてなれる筈がない。

 この国を占める多くの貴族達から反発の声が上がって当然の事。
 そこで彼はこの建国記念パーティーを利用して、彼らからの支持を得られる様な感動的な舞台劇を作り上げたのだ。
 突然の『婚約破棄劇』で参加者の興味を一斉に引き付ける。
 エミリア様は悪役令嬢、クリスティーヌはそんな彼女に虐げられる悲劇のヒロイン……という配役だろう。

 不幸な少女が健気にも困難に立ち向かい幸せを掴み取る。
 そして悪役令嬢はそれまでの悪事に応じた報いを受ける。
 舞台あるある逆転劇の一部を私達は見せられていた訳だ。

 そして極めつけとなるのが『真実の愛』という魔法の言葉。
 みんな大好きよね。真実のなんとかって。
 『真実』なんて言われると、それが正しいかのように錯覚してしまう。しかもそれを言うのがこの国の王太子なのだから、なおさら説得力があるのだろう。

 結果は王太子殿下の思惑通り。誰もが二人を応援し始めている。
 もしかしたら、中にはおかしいと思う人もいるかもしれないけれど、人は協調性を重んじる。
 多数派に流れるのは人として当然の(さが)なのだろう。
 これも王太子殿下の計算の内なのかもしれない。

 ずるい男。なにが『真実の愛』なのよ。ほんとくだらない。
 
「レイナちゃぁ~ん」

 悶々とする中、泣きそうな程に情けない声が聞こえてきて思い出した。ヴィンセント様の存在を。
 声がした方へ振り返り――その姿を目にしてピシィッと私の体が石の様に固まった。