いつもはノックなんてしないで、すぐドアを開けちゃうんだけど。

今日は丁寧に2回コンコンってドアを叩いた。

はい、って琴ちゃん先生の声が聞こえる。

「失礼しまぁー…」

うるさく鳴る心臓の音、聞こえないフリをしてドアを開ける。

最初に目に入ったのは琴ちゃん先生、にこって笑ってどうしたの?って微笑みかける。


でもその後にね、小鳩の姿が見えたの。


そしたら保健室に入ることもできなくなちゃって。


手には可愛い手提げ袋を持ってたから。


あぁ、そっかそうなんだって。

やっぱり私には無理なんだって。

小鳩の持つチョコレートを見て思ったの。


「…っ」

走って逃げちゃった。

ドアも開けれないまま。

ぎゅって持っていた紙袋を抱きしめて。



見られたかな?

私の顔。

見てたかな。

そんなの気付かなかったかな…






「柳澤さん…っ!」


「っ!」




グッと腕を引っ張られた。



無我夢中でその場から離れようとした私の腕を、追いかけてきた小鳩に掴まれた。

「…なんで泣いてるんですか?」

「………。」

えっと、ここはちょっといいシーンなんじゃないかなって自分でも思ったんだけど。

正直言うと振り返った瞬間、小鳩の顔見て嬉しく思っちゃった自分もいるし。


でも目の前の小鳩は…


なんでそんなキョトンとしてるの?


「どうかしました?」

通常運転過ぎるよ。

でもそうなんでしょ、そーゆうことなんでしょ。

どうしよう涙の止め方がわからない。

腕を振り払って、持っていた紙袋を小鳩の胸に押し付けた。


力を込めて。



「小鳩が好き」



涙で前が見えないけど、見上げる覚悟もないんだけど、こんなチョコレートの渡し方しかできないんだけど。


「好きです、受け取ってください」