店内には雪兎が一人、掃除をしている。


「おはよう、友奈ちゃん。今日はずいぶんと早いね?」


 あまりにも普段通りすぎて、友奈は困惑する。


 ネットの騒ぎを知らないのだろうか。


 だとすれば、下手に触れる必要もないのかもしれない。


 そうやって考えているうちに、変な間ができてしまう。


「もしかして、ちぃちゃんのことで来てくれたのかな」


 友奈はその一言で、今巡らせた考えは無駄だったことがわかる。


「やっぱり、三崎も見たんですね。三崎は?」
「奥でパソコンとにらめっこしてるよ。ここのほうが環境がいいみたいで、叩き起されちゃった」


 雪兎は言い終えると同時に、あくびを一つする。


「友奈ちゃん、朝ごはんは食べた?」


 本当に騒ぎを知っている反応とは思えない穏やかさに、杞憂だったかもしれないと思う。


「いえ、それどころじゃないと思って……」
「じゃあ特別に用意するよ。ちょっと座って待ってて」


 雪兎が厨房に消えると、友奈はカウンター席に座る。


 落ち着いている雪兎を見たからか、今朝ほどの焦った気持ちは、鎮まっていた。


「三崎、なにか言ってましたか?」


 雪兎が厨房からたまごサンドを持って戻ってくるところに質問する。


 雪兎は友奈にそれを渡しながら、苦笑した。


「だから関わりたくなかったんだって、ずっと言ってたよ」