『呼び捨てで構わないんだけど…。
まぁ、仕方ないな。俺は今年29。
果穂の誕生日はいつ?』

質問責めでタジタジになってしまう。

「えっ?…2月15日です。翔、さんは?」

『俺は夏生まれ7月7日。』

「七夕ですね。なんだか素敵です。」

『ははっ、そんな事始めて言われた。
果穂は夕飯何食べた?』

「今夜はお鍋です。この時期は忙しいのでお鍋の日が多いんです。ちなみに明日はおでんにしました。」

『果穂が作ってるの?』

「うちは、母が小さい頃に亡くなったので、必然的に今は私の担当です。」

『そうなのか…。俺も母親は居ないに等しい…。俺が子供の頃に愛人を作って出て行ったんだ。まぁ元々冷めた家族関係だったし、母親らしい事をしてもらった覚えも無いけどな。
果穂の家族は仲良さそうだよな。
どんな家族?』

「そうなんですね…。うちは過保護な兄と妹が1人。妹は東京で美容師の専門学校に通ってます。父は穏やかな人で、閑散期にはいつも旅行に連れて行ってくれます。
翔さんは?ご兄弟は?」

『俺は、義理の弟が1人。中学の頃に父親が再婚したんだ。だけど、俺はあの家には馴染めなくてそれから1人で暮らしてる。』

「中学生からですか⁉︎大変だったんですね…。」
私には想像も出来ないほどきっと辛い思いをしてきたんだろなと心が痛む。

『でも親代わりの家政婦が毎日通いで家事はやってくれていたし、不自由はしてなかったから。』
大した事ない様に翔はそう言う。

「寂しくないですか?」

『そう言う感情はもう無いな。でも、果穂に会えないと寂しいな…。
果穂と話してると、癒されてカサついた気持ちが穏やかになる気がする。』

「私なんかで良かったら、話し相手ぐらいにしかなれませんけど、いつでもお電話して下さいね。」

『ありがとう。』

車のバック音が電話の向こうから聞こえてくる。
「ご自宅に着いたみたいですね。お夕飯ちゃんと食べて寛いで下さいね。」

「ああ、分かった。…じゃあ、お休み」
と名残欲しいが電話を切る。

彼女の優しい心遣いと思いやりに癒されひととき、仕事でギスギスした気持ちが浄化された気持ちがする。