俺様社長は純情な田舎娘を溺愛する

車の中、果穂はホッとした様に助手席のシートに体を沈める。

「疲れたか?」
運転しながらチラリと様子を伺う。

「大丈夫。お父様に受け入れて頂けたみたいでホッとしちゃった。」

「俺も正直、拍子抜けした。昔はもっと厳しい人だったんだ。歳を取って丸くなったのかもな。」

「きっと、翔さんが離れてしまってから、
お父様もいろいろ考えたんですよ。ただ、意地を張ってしまっただけで…。ずっと和解したかったんだと思う。」

「果穂、そういえば食事の時に俺の袖引っ張ってたよな。何を言いたかった?」

「あっ…あれは…翔さんが辛そうだったから…。」

俺が辛そう?
ちょうど赤信号になり車を止めて果穂を見る。
「あの、きっとお父様に鋭い言葉を投げつけるのは辛いんだろうなって…。」

「そんな風に見えたか?」

「本当はきっとずっと前から仲直りしたかったんでしょ?
お互い意固地になってただけで…お父様だってきっとずっと前から、
翔さんと一緒にお酒を飲みたかったはず。」
果穂が視線を向けてくる。
穏やかな気持ちで視線を交わす。

青信号で車を発進させる。

「そうかもな。俺の中では親父を恨んだ事は一度も無かった。子供の頃は寂しいと思った事もあったけど。大人になってからは、不器用な人だなって同情してた。
ただ、俺は自分の人生は自分で決めたかっただけだ。」

「これからはお父様ともっと仲良くなれますね。」
果穂が嬉しそうに微笑むから、つられて俺も笑顔になる。

「明日、婚姻届を書いて一緒に提出しに行かないか?」
若干緊張しながら果穂にそう告げる。

既に、婚姻届は果穂が東京に来る事が決まってから直ぐ手に入れていた。

本当はこのまま時間外窓口に提出しても良かったんだが、そこまで急く必要も無いだろと自分に言い聞かせる。