翔がその部屋に駆けつけると、ちょうどホテルスタッフが鍵を開けて中の様子を確かめる所だった。
誰よりも早く部屋に飛び込む。

「翔、手は出すな!」

「堀井社長!!」
雅也と弁護士が同時に叫び追いかける。

瞬間、
男が1人驚いた顔でこちらを見ている側で、
目隠しをされ、手足を縛られベッドに横たわる果穂の姿が目に入る。 

「果穂!!」
咄嗟に抱き上げ男から引き離す。

「か、翔さん⁉︎」
翔は果穂の目隠しを剥ぎ取り、
手足の縄を外そうとすると何故か自分から簡単に外して、果穂から抱きついてきた。

「良かった……果穂…。」
ぎゅっと抱きしめ無事を確認する。

安堵と共に、どうしようも無く体が震えた。

怖かった……このまま二度と会えなくなるの
ではと思うと怖かった。

「心配かけて、ごめんなさい…。」
お互い強く抱きしめ合い、その存在を確かめる。

「おい、びっくりさせるなよ…殴りかかるかと思ったよ…。」

一足遅く部屋に飛び込んだ雅也が、
はぁーっと深い息を吐く。

「高見沢さん、貴方が何でこんな茶番に手を貸したんだ!」

翔は果穂の無事をひとしきり確認すると、
逃げるでも無く呆然と立ち尽くす高見沢を鋭い目で見抜く。

雅也は翔の近くに寄って手を出さないように見守る。

「貴方は長く父の秘書として働いていた。
なぜこんな、裏切る様な真似…。」
胸ぐらを掴かむ勢いで近付く翔を、
雅也は手で制して止める。
果穂も慌てて駆け寄り翔の腕に抱き付く。

「翔さん…高見沢さんにはどうしようも無い理由があるんです…。
高見沢さんは指示通り動いただけで…私を逃そうとしてくれました。」