「どうして…どうして貴方の上司、
翔さんのお父様に相談しなかったのですか?

罪を犯かす前に…もっと周りの人に助けを求めるべきでした…」
やっと手が解放されて、縄の痛みからも解放された。
手首には擦れて赤くなった痕が…。
翔さんの心配する顔が浮かんでくる。

「社長は…仕事に厳しく…
私は彼の信頼を得る為にずっとガムシャラに働いて来たんです。
やっとここ数年で認められ、これからだって言う時に…相談出来るような人では無かった… 」
 
高見沢さんは震えながら、私の足を縛っている縄を解き身の上を話してくれる。

「使えない奴は直ぐに捨てられる。
私だって、何とか食らいついて20年以上共に歩いて来たんだ。
社長に弱味を見せる訳にはいかなかったんだ。頼めるような間柄では無かった……。
金欲しさにあんな女の言う事を……聞いてしまうなんて…私もどうかしてたんだ。」
頭を抱えて涙を流し始める。

「今からでも遅く無いです。私を助けて無事に返して、貴方の奥様の事は翔さんに頼んであげられます。
翔さんは情の深い人だから、とても頼りになる人ですから。」
必死に彼を説得する。
彼の為にもこれ以上罪を増やさせてはいけない。

「…翔さんは私が知る限りでは、社長と同じ様な冷血な人だとばかり……。」

「決してそんな人ではありません。
ただ家庭環境のせいで、笑い方を忘れてしまっていただけで……彼は心の優しい人です。決して私を見捨てたりしない。
貴方の事もです。手を差し伸べてくれる筈。
私との遠距離恋愛の為にヘリコプターまで買おうとしていた人ですから。」

「…しかし、私は…その大事な婚約者を誘拐してしまった…。」
ガクンと落ち込む彼の肩を優しく叩く。

「大丈夫です。私が一緒に頼んであげますから。」
彼は、手で顔を覆ってしばらく動かなかった。