俺様社長は純情な田舎娘を溺愛する

「健、言わないと送ってってやらないぞ。」

「えっと…
父さんが、兄さんに、政略結婚させたがってるって…話を…果穂さんも知っておいた方が良いんじゃ無いかと…ごめんなさい。俺から話すべき話しじゃなかった…。」
健君は潔く頭を下げて謝る。

「なるほど…。」
翔さんは腕組みしてしばらく天を仰ぐ。

「早かれ遅かれ果穂には知られる事だから、仕方ない…。」
果穂の方を見て苦笑いする。

「まぁ、俺も今日知ったんだけど。
帰り際に父親の秘書から電話があって、
彼女の事で大事な話があるから、ホテルに来て欲しいと呼び出されたんだ。」
はぁーっと深くため息を吐いて、翔さんは話を続ける。

「果穂に接触されても困ると思って、無碍にも出来なくて指定されたホテルの部屋に行って来た。
変だとは思ったんだ。
ホテルのロビーならまだしもわざわざ部屋を指定して来たから…。
行ったら、知らない女が下着姿で飛びついてきた。」

えっ⁉︎
余りの驚きで、私も健君も目を見開いて固まる。
「そんな、これ見よがりの作戦で兄さんが流される訳無いのに…。」
健君がそう呟く。

「俺も逆に腹立たしかったが冷静にもなれた。多分、彼女は何か俺に薬を飲まそうとしたんだ。まぁ、俺だって馬鹿じゃ無いから簡単にかわせたけどな。」

私に目線を合わせて優しく微笑む。
「俺が、果穂以外に心が揺れる事は絶対無いから安心して。」
そう言って優しく頬を撫でられる。

「何で父さんはそんな捨て身な事をさせたんだ?何か焦ってるんだろうか…。」

「早急に調べさせたが最近の業績はさほど落ちて無かった。まぁ、彼女が何者か調べればすぐ分かる。」

「今日の日を選んだのは…多分、母さんが父さんに伝えたんだ。
俺が兄さん家に行く事を母さん以外には言って無いから…。ごめん兄さん、俺がもっと警戒すべきだった。」

「健は悪くない、気にするな。」 

「だけど、俺だって抗議して良いはずだ。
ちょっと父さんに電話する。」

そう言って、健君は突然スマホを取り出して電話をかける。

「もしもし、父さん。どう言う事。
何で今日に限ってこんな事するんだよ。
あなたはいつも自分勝手で人の意思を無視して、俺達の気持ちなんてどうでもいいのかよ!!俺、しばらく家には帰らないから!!」
健君は一方的にそう捲し立てて電話を切ってしまう。

翔さんより怒っている健君を見ると、
今まできっと同じ様な事が何度も何度も繰り返されて、積もり積もった思いが込み上げたのではないかと察する。

翔さんもきっと誰より健君の気持ちが分かる。健君の頭をポンポン撫でて励ましている様に見える。

「とりあえず、啖呵切ったんだからしばらくここにいろ。部屋はあるから。
布団はコンシェルジュに頼めばレンタルを借りれる筈だ。」
そう言って、フロントに連絡を取る。

「あっ、パジャマとかいろいろ用意しますね。お風呂の準備してきます。」

私もパタパタと支度をしにお風呂場に向かう。

「ごめん。何か突然泊まることになっちゃって。」
健君は冷静になった頭で申し訳無さそうに謝る。

「困った時の兄弟だろ。
それに俺の為に言ってくれたんだ責任持って面倒みてやる。」

「でも、果穂さんとの生活を邪魔するのも申し訳無いから…明日にはどっかホテルに…。」

「お前はまだ未成年だろ、そんな簡単に泊めてくれる所なんて無い。気にせずここに入ればいい。」

翔さんは被り気味にそう言って、部屋を用意しにリビングを出る。