(翔side)
その頃、翔は言い知れぬ衝撃を受けていた。

ただ、ちょっとぶつかって咄嗟に支えて助けただけに過ぎなかった。

長身の奴なら良くある出来事だ。
特に人混みは真下を見誤りがちだし…そう、良くある出来事の筈だった。

彼女と目を合わせた瞬間、言うなれば雷に打たれたかの様な衝撃を受けた。

綺麗な澄んだ瞳に惹きつけられた。

透き通る様な白い肌に大きな瞳、びっくりしたその顔に突然心臓が高鳴り動けなくなった。

すいません、としきりに頭を下げる彼女を、瞬きもせず見入ってしまった。

咄嗟に掴んだ腕を離す事も出来ず、ただ、時間が止まったかの様な錯覚に陥った。

あの子は?
我に帰って振り返った時、既にそこにはいなかった。

「社長、どうかしましたか?」
秘書の新田が心配顔で俺を見る。

「あの子は誰だ?」
衝撃の余韻で思わず呟いてしまう。

「さぁ…でもエプロンに間宮ファームって書いてありましたよ。そこの店の従業員ですかねぇ?ちょっと聞いて来ます。」
フットワークの軽い新田が店の店主に話を聞きに行った。「分かりましたよ。間宮ファームの果穂ちゃんです。」
名前を気安く呼ぶな若干イラッとしながら聞き返す。

「このみかんを作ってるファームの娘さんらしくて、今追加のみかんを持って来ていたらしいです。これ、彼女の実家で採れたみかんです。」
新田はみかんが入った袋を見せる。

間宮ファームのロゴの付いた袋には、裏面に生産者の名前と住所も書かれていた。

「さすが有能な秘書だ。」

みかんの袋を受け取り足速に車に戻る。

「お、お帰りなさいませ。」

運転手は直ぐに帰って来た為か、コーヒー缶を片手に焦っている。

「地産の果物があったら全部買って来てくれ。」
そう言って、財布から一万円を新田に渡す。

「了解です!行ってきます。」
新田の良い所はフットワークが軽い所と、プライベートについてはあまり深く追求しない所だ。