つぶやいたつもりが声になっていなかった。


掠れた空気が出てきただけで、私の声は誰にも届かない。


救急車が接近する中、私は手の中のスマホを握りしめた。


画面を確認してみると、裕之からのメッセージが来ていることに気がついた。


《裕之:愛してる。結は、生きて》


その文面にすべてが詰まっていた。


目の前で飛び降り自殺をした裕之の願いが胸に突き刺さり、熱い熱となって目頭を刺激する。


涙が目に膜をつくって世界が滲んでしまう前に、私は裕之にスマホレンズを向けた。


震える指先で写真を撮影しても、周囲は喧騒にまみれていていちいち私の行動を気にしている人はいない。


やがて近くに救急車が停車して、野次馬たちと一緒に私は横の方へと移動させられてしまった。


裕之の体がストレッチャーに載せられて運ばれていく中、私のスマホが震えた。


《呪いを回避しました》


そしてそのメールも写真付きの呪いのメールも、こつ然と消えてしまう。


もう、どこをどう探しても私のスマホに呪いの痕跡はなかった。


アレはまたどこか、誰かのスマホに届くのだろう。


救急車が走り去っていく音を聞きながら、私は裕之がもう助からないことを知っていた。


ようやく出てきた涙がボロボロと粒になって頬を落ちていく。


地面に濃いシミとなって滲んで消えていく涙に気がつく人はいない。