私は家にスマホを置いてきたはずなのだから。


だけどやはり裕之の姿はどこにもなくて、頭が混乱してきたときだった。


キャア!!


と、女性のか細い悲鳴が聞こえてきて周囲に視線を走らせた。


しかし、さっき確認したばかりの屋上には誰もいない。


それに悲鳴はとても遠い場所から聞こえてきた感じがした。


私は恐る恐る下を見る。


ビルの下には人が集まってきていて、なにかを取り囲んでいるように見える。


ゾワリ。


全身が一気に総毛立った。


ブツブツと鳥肌が現れて首筋がスーッと寒くなる。


ここからでは地上の様子はよくわからない。


それなのに、すべてが理解できていた。


そんな、うそでしょ、どうして!?


真っ白な頭の中に浮かんでくるのはそんな言葉ばかりだ。


塀から屋上の地面へと飛び降りて、ふらふらになりながら非常階段を駆け下りていく。


カンカンと響く自分の足音がやけに耳障りで、何度も足を踏み外して転げ落ちてしまいそうになった。


ようやく道路に降り立ったときには救急車の音が近づいてきていた。


私はスーツ姿の人垣をかき分けてその中央へと向かう。


鼓動は早鐘を打ち、呼吸は荒くて少ししか酸素が入ってこない。


メマイを起こして倒れてしまいそうになりながらも、その光景を見た。


そこには裕之が横たわっていた。


頭部から血を流し、目はまっすぐに空を見つめて、手足が折れ曲がって関節部分から骨が露出している。


「なんで……」