加菜子は助かったんじゃないの?


恐怖の元凶は断ち切ったんじゃなかったの?


そんな思いがグルグルと頭の中を支配する。


「どこで発見した?」


「トイレの洗面台です。水をためて、そこに顔をつけていました」


医師の質問に、看護師が早口で答える。


ゾクリと全身が寒くなった。


もう一歩も動けない。


加菜子は川から引き上げられた後、目を覚ましたのだ。


命は助かった。


それなのに自ら病院で溺死するような行動を移している。


よほど深刻な状態なのか医師はさっきから人工呼吸を繰り返しているようだ。


「ダメだ。AED!」


医師が叫び、隣で眠っていた老婆が目を覚ました。


看護師が慌ただしく病室を出ていく。


カーテンが開いた瞬間、加菜子の蒼白顔がみえた。


唇は紫色で、目の下は黒ずんでいる。


呼吸をしているのかどうかの判別はつかなかったが、その顔は写真で見た死体とそっくりそのままだった……。