なにも見ていない状態なのに少し気にしすぎたみたいだ。


私は自分に苦笑いをしてまた足を踏み出した。


304号室に医師が入っていったのは他の患者さんを診るために違いない。


加菜子はきっと目を覚ましているはずだ。


真っ白い扉を前にして足がすくむ。


ここを開けてしめば現実を直視しないといけなくなる。


そう思うとなかなか手を伸ばすことができない。


鼓動は早くなり、じっとりと手のひらに汗が滲んでくる。


恐る恐るドアノブに手をかけて、そっとひいた。


立て付けのいいドアはお供なくスッと開く。


素の向こうには白い世界が広がっていた。


白いカーテンがひかれていてその中で医師と看護師がなにか動き回っているのがわかる。


私はゴクリとツバを飲み込んで一歩足を踏み入れた。


大部屋だと思っていたそこはふたり部屋だったようで、奥では寝息を立てている老婆の姿がみえた。


と、いうことは……。


カーテンがしかれている手前のベッドへ視線が向かう。


加菜子が眠っているのはこちらのベッドで間違いない。


そしてそこでは今医師たちが慌ただしく動いている。


また、鼓動が早まった。