それは左右バラバラな方向をむき、片方はひっくりかえっている。


まるで小学生が大慌てで靴をぬいで家に上がり込んだときのようだ。


けれどその靴のサイズは大人もので、少しだけ違和感を覚えた。


もしかして加菜子の母親は体調不良で帰ってきたのかも知れない。


靴を整えることもしんどいのかも。


そう思いながらリビングへ入ると、ソファに座る加菜子の母親の姿があった。


前に1度、体育祭のときに会ったことがある。


加菜子と同じように少しふくよかな体型で、ニコニコと笑顔の耐えない優しそうな人だった。


今目の前にいるのは間違いなく加菜子の母親だ。


体型も以前見たときと変わっていないし、雰囲気も同じ。


「お母さん、もう帰ったの?」


加菜子に話しかけられた母親が笑顔で振り向いた。


そして無言のまま立ち上がる。


顔は笑顔だけれど笑っていないと瞬時に感じ取った。


加菜子の母親から感じる視線は背筋を凍らせるほどに冷たかったからだ。


そんな異変に感づいたのか、加菜子が数歩後ずさりをした。


「こんなところでなにをしているの?」


それは感情のこもらない機械的な声だった。


「ご、ごめんなさい! 勝手に上がり込んで泊まってしまって」