まるで子どものように「馬鹿」と空は何度も言う。ただ、悔しかった。こんなことを結月に言わせたくなったのだ。

「あなたにはわからないわよ!何でもできるせいで人から妬まれて、あることないこと言われて、仕事で忙しくて家に帰って来ない親が、自分の知らないところで「気持ち悪い」って周りに言っている苦しさなんて、あなたには一生わからないわよ!」

「なら、その辛い気持ちを僕にぶつけろよ!死んで僕の知らない場所へ行こうとするなんて、絶対に許さない!僕は結月さんが好きだ!一人の女の子として好きだ!好きな人がいなくなろうとするのを、平気で黙って見てる奴なんてこの世界にいないんだよ!!」

空がそう言うと、結月の体が震え出す。そして、彼女の口から子どものように頼りない泣き声が響いた。

空も泣いた。静かに泣いた。だが、結月を離すことは決してなかった。



それから時は少し流れ、季節は夏になった。もうじき夏休みがやって来る。

結月は何とか死ぬのを思い止まってくれた。結月の空に対する態度は変わらないため、空との関係は「共犯者」のまま。空はそう思っている。

「ねえ、今日はどこでサボる?」

いつものようにそう訊ねると、夏の真っ青な空を見上げていた結月がこちらを見る。空の顔が赤く染まっていく。

「恋人さんが行きたいところなら、どこでもいいわ」

初めて見せてくれた結月の笑顔は、まるでダイヤモンドのように美しいものだった。