「ということは、あれも王子?」
「あれって、ひどいな」

 ベレー帽の男を指さして言うと、彼は不貞腐れている。

「もちろん。あれもおれと同様に諜報員だ。あれは、悪を気取っている。ほんとうは、弱虫で泣き虫でいじけ虫なのに、悪者を演じているってわけだ」
「兄さん、ひどいじゃないか」

 ベレー帽の男は、アニバルの言う通りいじけ虫みたい。

 いじいじと大理石の床を爪先で蹴りはじめた。

「それで、どうして弱虫で泣き虫でいじけ虫がアレックスの命を狙うわけ?まさか、弱虫で泣き虫でいじけ虫が王太子の座を狙っているの?それとも、他の王子と結託しているとか?」
「だから、命を狙われているわけじゃない。ぼくを王都に連れ帰ろうとしているだけだ。そもそも、ぼくの王太子としての座はゆるぎない。王子だって、ぼくらだけだ」
「ぼくらだけ?」

 耳を疑ってしまった。