「おっと失礼」
「ごめんなさい」

 視線を指先へ向けると、すぐ横に男性が立っている。どうやら、彼と同じレシピ本を狙っていたようである。

 まったく気がつかなかったわ。

 下手な恋愛小説の出会いのシーンのようなこのシチュエーションに、思わず内心で苦笑してしまった。

 手をひっこめようとした瞬間、彼がそのレシピ本をつかんでわたしの手に押し付けてきた。

 なにこれ?下手な恋愛小説のストーリーそのまんまじゃない。

 これがきっかけで恋に発展していく、みたいな?女性目線だったら、男性はぜったいにカッコよくてキラキラしているのよね。男性目線だったら、女性はぜったいに美女でキラキラしているのよね。

 ということは、この男性はぜったいにカッコよくてキラキラしていなきゃならないわけで……。

 ついつい創作視点で物事をかんがえてしまう。これは、現実世界であって虚構の話ではない。