使用人たちは、次はどのレディが「奥様」になるのかについて賭けをしている。その賭けは、サロンや紳士クラブ、淑女クラブといった上流社会の溜まり場や、街の高級クラブなどでも行われている。

 いま目の前にいるビクトリアが、次のグレンデス公爵夫人になるらしい。

 わたしは、彼女の真実を知っている。厳密には、彼女のたくらんでいることをつかんでいる。だけど、それを彼に教えてあげるつもりはない。なぜなら、彼はわたしの言うことなどききたくないでしょうから。

 それはともかく、いま繰り広げられているこのつまらない芝居を、わたしはどう演じたらいいのかしら?

 ここにいる観客たちの期待に応える?期待に反してみる?それとも、さっさと舞台を降りる?

 そうね。何も観客たちをよろこばせてやる義理などない。ましてや、役者たちも。

 なにより、バカバカしいしつまらなさすぎる。

 王道の修羅場劇ではなく、もっと趣向を凝らしてくれれば、わたしだってのってあげなくもなかったのに。