それにしても、元夫はバカ?あぁバカなのは知っているけれど、彼はこの世界で五本の指に入るくらいのバカなのかもしれない。

 詳しいことはかわらないけれど、元夫はビクトリアにだまされていることに気がついていないわけ?それとも、すべてを知っているのに追いかけてきたわけ?

 前者は前者で問題だけど、後者は後者で大問題だわ。

「ビクトリア?だれ、それ?」

 わたしたちがビクトリアだと思っている女は、そうすっとぼけてから大笑いした。

 その甲高い笑声に、この場にいるだれもが眉間に皺をよせている。

 すりガラスをひっかく音とか、ブラックボードに爪を立てる音に匹敵する笑い声だわ。

「あんた、ほんとおめでたいわね。わたしは、聖女のように穏やかで親切で気遣い抜群の貴族令嬢なんかじゃないわ」

 彼女は、元夫がわたしに離縁を叩きつけたときの自分への褒め言葉を引用した。