「やめろっ!おれに触れるな。このチンピラどもめ」
「おとなしくしろ。ったく、手間をかけさせやがって」

 さほど抵抗もせず、っていうか抵抗する間もなく、マントの男は乱入者たちに捕まってしまった。

「行くぞっ」

 そして、乱入者たちは「暴れてごめん」とか「お騒がせしました」とか、謝罪の言葉一つなくマントの男を連れだそうとする。

 そのとき、マントの男のフードが頭からずれ落ちていることに気がついた。

 食堂の入り口へと向かっているその横顔を目の当たりにする。

 無精髭に覆われたその顔……。

 アレックスには劣るけれど、そこそこの美貌のはず。

 なんてことかしら。

 会ったことのある顔である。

 それは、元夫セシリオ・グレンデス公爵のスケベ系の美貌だった。

 いままさに食堂の出入り口からその背が消えようとしたとき、「放せってば!」という叫び声とともに、彼が暴れはじめた。