「クミ、ほんとうにありがとう」

 彼の美貌にやさしい笑みが浮かんでいる。

 この美貌にだまされている女性は、いったいどの位いるのかしら?

 やっぱり、彼のスケコマシ疑惑は拭いきれない。

「いいのよ。いざ、モリーナ王国へ、ね」

 彼の左手が、わたしの右肘あたりで彷徨っている。

「ロータッチね」

 この高さならハイタッチならぬロータッチになるわよね。そんなタッチがあるかどうかは知らないけれど。

 右手で彼の左手を思いっきりタッチした。

「パチンッ!」

 思いのほかキマッた。

 暮れかかって真っ赤に染まっている通りに、小気味よい音が思いっきり響き渡った。

「イタタタタタ」

 アレックスったら、大げさね。最最弱でも、一応剣士なんでしょう?

 左手を右手で抑えつつ、馬上で前屈みになっている彼の横顔を見、微笑ましくもちょっとだけ残念だと思った。