「こいつは最高だ。どうやら、おれの出番はなさそうだな」
「アニバル様。お嬢様が、お嬢様が大変なことをしでかす前に止めてくださ……」

 アニバルとカルラが、うしろで何か言っている。

 そのとき、アレックスがまた叫んだ。

「そそられる。クミ、そそられるさ。だれだってそそられる。そそられない奴は、見る目がない大バカ野郎だ」

 その突然の叫び声に、だれもが彼に注目した。

 アレックス……。

 いくらなんでもそんな恥ずかしいことを堂々と言ってのけるなんて、あなたはやはりあなた自身の小説の主人公元宮廷楽士のセシリオと同じじゃない。

 スケコマシの主人公そのものだわ。

 あらためて、彼の本性を垣間見た気がした。