「ぶ、葡萄酒、なくなったわね。居間のボトルラックから何か見繕ってくるわ」

 急展開についていけそうにない。心の準備どころか、小説風に表現するところの「胸が高鳴っている」のひどい状態になっている。心臓は、いまにも口から「ゲボゲボッ」って出てきそうだわ。それこそ、バックバクとかドドンドドンと暴れまくっている。

 とりあえず、時間稼ぎする必要がある。だから、彼にお酒を取ってくると提案した。

 彼の返事を待たずに立ち上がり、扉へと向かおうとして……。

「待ってくれ」

 さすがは小説まんま君だわ。小説のこういう場面の展開通りに動いてきた。

 彼は、わたしが彼の長椅子の横を通りかかったタイミングでわたしの手をつかんで立ち上がった。

「遠慮しないで。わが家のボトルラックにあるお酒は、安物だから」
「そうじゃない」