あいつは……鈴蘭のことを、幸せにできる男ではない。


 一度でも鈴蘭のことを裏切った男に……鈴蘭は渡さない。


 いや、あいつじゃなくても……鈴蘭だけは、世界中の誰にも渡しはしない。


 だから……早く、鈴蘭の記憶を戻したい……。


 本当は、俺も妖術師の捜索に動きたかった。


「夜明……」


 俺を見ながら、百虎が困ったように眉を下げている。


「悲しいのはわかるけど、今の状況はさ……鈴ちゃんがそれだけ、夜明を想ってるってことだよ」


 ……そのことも、頭ではわかっている。


 きっともしも、本当に俺が白神の立場になったとして、鈴蘭は俺の名前を名乗る男が現れても……俺のことを信じ続けてくれると。



 現に、こうなって初めて……俺は自分が鈴蘭にこれほど愛されていたのだと痛感した。


 だからと言って……この状況を受け入れるほどの余裕が、今の俺にはないだけだ。


「すぐに……この悪夢は覚めるから」


 今は百虎のその言葉が、ただの慰めにしか聞こえなかった。