金木犀が開花したというニュースを見て、「ご飯を食べに行きませんか」と連絡をした。


秋になると、オレンジの木漏れ日と、金木犀の香りと、日差しに目を細めたのをいつも思い出す。


私には、秋にだけご飯を食べに行く人がいる。


大学時代に知り合った人。普段は関東にいて、秋だけこちらに帰省する。


懐かしさの塊みたいな人だった。


もう五、六年になるだろうか。毎年秋にはその人と連絡をする。


予定が空いていたら、と遠慮がちに誘う食事会は今のところ、毎年欠かさずに開かれている。


秋に金木犀の香水をつけるのは、その人と、当時新しく行き始めた美容室の影響だった。


その美容室では、金木犀の香りのするスプレーをいつも仕上げにかけてくれる。


日焼け止め兼トリートメントのスプレーなのだけど、いい匂いがして、魔法をかけてもらうみたいでいまだに大好き。もう何年も通っている。


だから私にとって、金木犀は美容室の香りでもあり、秋の香りでもあった。


ポプラ並木の下を駅に向かって歩いていると、ぽこ、と通知音が鳴った。一度隅に立ち止まって、わくわくアプリを開く。


『行こ』


久しぶり、なんてついていない短い返事に思わず笑ってしまう。

いや、そんな礼儀正しい言葉はこちらも送らなかったのだけど。