そう。
 私に、『お前は誰だ――』と言ったのは、記憶を取り戻したあとの青葉だ。

 だったら、母親に謎の女と引き合わされたという記憶があるはずなのに、と思ったが。

 青葉は言う。

「お前、もしかして、大吾(だいご)に会ったか」

「誰ですか、大吾って」

「母とそっくりな母の姉の子だ。
 俺よりちょっと年上なんだが、よく似てて、結構、間違われるんだ」

 ……別人のような冷徹でやり手の御曹司……

 って、あれ、別人だったのではっ!?

 寿々花さんーっ!? とあかりは心の中で絶叫する。

「道を訊かれたとか言ってたが。
 大吾も莫迦だな。

 こんな方向音痴そうな奴に訊くなんて」

 はははは、と青葉は笑っている。

 ……いや、私に道を訊いた莫迦者は、あなたの方ですよ。

 そう思いながら、あかりは蒼い扉の横にかけてある、フィンランドから持ち帰ったランプを見つめた。