「…後片付けは私がしておきます。理沙お嬢様はお休みください」



と言いつつ、離されない。

優しく伏せられた目に惹かれている私もおかしい。



「今日のお弁当、すごく美味しかったです。あ…、もう昨日ですね」



浅くうなずくだけ。

本当は何か言葉を言いたかったけれど、言ったら素っ気なくなってしまいそうで。



「あんなふうに一生懸命つくってもらえるなんて、…あなたの未来の旦那様が羨ましいです」


「…佐野様よ、」


「いいえ。彼ではなく、もっと素敵な人が今後現れるかもしれませんから」



そんなの、ないわ。

碇は今回の縁談を本気で破談にしようとしているけれど、もしそうなったとしても他に誰がいるっていうの。


こんなおにぎりを“美味しい”なんて言ってくれるのは、あなただけよ。

碇、あなただけで………いいのに。



「…そうね。何枚も写真を撮って、食べるたびに美味しい美味しいってバカみたいに言ってくれる人がいいわ」


「……そんなの、俺くらいじゃないですか、」


「…うるさいわ。生意気よ碇」


「はい、申し訳ございません」



強がりだらけの会話。


でも、もし誰かさんみたいな人が私の旦那様だったら。

きっと毎日が賑やかで楽しくて、笑顔が途切れないんだろう。