けれどもドラゴンの瞳の紅が増して、先ほど見せた感情の欠片はかき消される。
呪縛の呪具がいっそう黒く輝き、瘴気すら撒き散らし始めた。
「ヴァオオオオオ!!」
巨大なドラゴンは体全体に黒い瘴気をまとわりつかせ、恐れを無くしたように攻撃的になった。
「ドラゴンの呪縛の干渉が強まったぞ!アスター兄上、このままでは結界は保たぬ!!」
マリア王女が叫んだ通りに、禍々しい黒き瘴気にブラックドラゴンは包まれた。
それとほぼ同時にアスター王子の結界が不安定になり、魔力が無いわたしでも確認できるほど揺らめいて見えた。
「早く弓騎兵を!動きを少しでも止めるんだ!!」
アスター王子の指示どおりに、宮殿の屋上に配置された矢を携えた部隊がドラゴンヘ向かい弓をつがえる。
「放て!!」
少なくとも二十以上の矢がドラゴンへ猛スピードで襲いかかる。けれども、それらすべてが届かずドラゴンの手前で燃え尽きる。
「休むことなく射て!!近衛兵は左右に展開。襲撃に備えろ!!」
アスター王子の指示で弓騎兵はそのまま攻撃を続行するけれども、どの矢もドラゴンを傷つけるどころかすべて燃えてしまう。
限界を悟ったのか、アスター王子は妹に逃げるように勧めた。
「マリア、早く逃げろ!結界が保たない」
「嫌じゃ!わらわは一人ぬくぬくと護られる立場などは…」
「マリア!!」
珍しく、アスター王子が声を荒らげた。
「気高き理想はいいが、その結果誰かを死なせたらどうする?退き際を誤るな!誰かの犠牲の上に成り立つ理想など詭弁だ!」



