【完結】捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?


ドラゴンの瞳が、ピクリと動いた。

ハッと気がつけばアクアがわたしの前に立ちはだかり、ドラゴンを睨みつける。

そして、いなないた。

「ヒヒヒヒーン!!」

ビクリ、とドラゴンの顔が揺れる。

初めての反応だった。

何が起きたのかわたしにはさっぱりわからないけれども、ブラックドラゴンがアクアに恐れをなしているようにも見える。

「ヴルオオオ!ビヒヒーン!!」

かなり強い調子でアクアがいなないているから、彼女はドラゴンに怒っているのだ、と理解できる。
けれども、たかが馬。翼を広げると30メートル近くある巨体を誇るドラゴンにとって、馬一頭なんて歯牙にもかけない存在のはず。

なのに、なぜ? ドラゴンはブレスを吐く口を閉じ、後ずさりすらしてる。

その理由を、アスター王子が理解したようだった。

「……そうか、アクアの腹に宿るユニコーンの仔の存在だ」
「えっ?」
「ブラックドラゴンは炎龍だからな。水の属性の幻獣の中ではユニコーンはドラゴンと相容れない存在。アクアはユニコーンの仔を受胎したゆえに、今はほとんどユニコーンと同じ魔力を宿している。だから、ブラックドラゴンはアクアを警戒しているのだろう」
「アクアが……」

確かに、アクアは昔から水が好きだった。生れて数日で川を泳いだくらいだ。泳ぎはどの馬より上手くて、急流で溺れた人間を何人も助けたくらいだ。

もともと水が好きだったアクアが水属性のユニコーンと惹かれ合ったのは、運命だったのかもしれない。