ドラゴンの瞳が、ピクリと動いた。
ハッと気がつけばアクアがわたしの前に立ちはだかり、ドラゴンを睨みつける。
そして、いなないた。
「ヒヒヒヒーン!!」
ビクリ、とドラゴンの顔が揺れる。
初めての反応だった。
何が起きたのかわたしにはさっぱりわからないけれども、ブラックドラゴンがアクアに恐れをなしているようにも見える。
「ヴルオオオ!ビヒヒーン!!」
かなり強い調子でアクアがいなないているから、彼女はドラゴンに怒っているのだ、と理解できる。
けれども、たかが馬。翼を広げると30メートル近くある巨体を誇るドラゴンにとって、馬一頭なんて歯牙にもかけない存在のはず。
なのに、なぜ? ドラゴンはブレスを吐く口を閉じ、後ずさりすらしてる。
その理由を、アスター王子が理解したようだった。
「……そうか、アクアの腹に宿るユニコーンの仔の存在だ」
「えっ?」
「ブラックドラゴンは炎龍だからな。水の属性の幻獣の中ではユニコーンはドラゴンと相容れない存在。アクアはユニコーンの仔を受胎したゆえに、今はほとんどユニコーンと同じ魔力を宿している。だから、ブラックドラゴンはアクアを警戒しているのだろう」
「アクアが……」
確かに、アクアは昔から水が好きだった。生れて数日で川を泳いだくらいだ。泳ぎはどの馬より上手くて、急流で溺れた人間を何人も助けたくらいだ。
もともと水が好きだったアクアが水属性のユニコーンと惹かれ合ったのは、運命だったのかもしれない。



