【完結】捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?


ブラックドラゴンの紅い瞳がこちらを向く。
明らかにこちらを狙っていた。

チラチラと見えていた喉の奥の炎が膨らみ、ブレスを吐くべく大きく口を開く。

その前に、わたしはパグウェル司祭様の講義を思い出し、大きく深呼吸してからそれを試みた。

「ブラックドラゴン、止めなさい!あなたがこの地を襲う理由はなに!?なにか要求があるならば、聞くわ!あなたは本来理知的で誇り高き存在のはず!それがなせ、他の生命(いのち)を害そうとするの!?」

精一杯睨みつけながら、ブラックドラゴンにそう訴えた。

できれば、傷つけたくなどない。パグウェル司祭様の情報通りに、フィアーナの呪縛の呪具の存在がその首に確認出来る。

正気を失ったブラックドラゴンに、わたしの言葉が届くあてはない。けれども、必死に心に訴えた。

「あなたを、傷つけたくはない!だけど、このまま暴れ危険なようならば、あなたは軍によって討伐されてしまう!お願い!どうか、元の気高きドラゴンに戻って欲しい!!」

攻撃の意思がないことを示すため、ブラックドラゴンの真下に歩み寄ると、武器を投げ捨てた。

マリア王女と女官はアスター王子のメダリオンで護られるだろう。だから、ファイアブレスが来てもわたし一人の犠牲で済む。

睨み合いが続いた。

ブラックドラゴンの紅い瞳の奥に、揺らめくものを見た刹那ーー特大のファイアブレスがこちらへ向かって放たれた。

「ミリィ!」

業火が揺らめく世界で、アスター王子の声が聞こえた気がした。