マリア王女は異母兄のアスター王子に向けて、とことん失礼な言葉を放つ。

「アスター兄上も見る目があるのう。この点“は”褒めてやろう」
「この点はって…」
「何を言う。散々ヘタレな部分を見せておいて、都合よく惚れられると思うてか?甘いぞ!」
「ぐっ…」

ビシィッ!と指差して12歳年下の異母妹から指摘される、21歳の王子様…。内容はよくわからないけど、アスター王子がぐうの音もでないからきっと正論なんだろう。
それにしても、2人のやり取りを見る限り仲は悪くないようでよかった。大人達の勝手な思惑で、まだ10歳にもならないマリア王女が振り回されてほしくはない。

「なにについてかわかりませんが、頑張ってくださいね、アスター王子!」

わたしが笑顔で励ますと、アスター王子はまた変な顔をする。そして、マリア王女はおかしそうに肩を震わせた。

「いいのう、この鈍感さ!いつ、気づくか見ものじゃ。のう、アスター兄上。賭けるか?」
「勝手に賭け事にするな!」

2人がわあわあやり取りしているのも、微笑ましい。

(よかった……これだけマリア王女がしっかりしているなら、アスター王子の立場も悪くはならないよね……)

わたしがほっと息を着いた瞬間、アクアの耳がピクリと動いたのが見えた。

ピリ、と首筋に言いしれない悪寒が走る。これは、直感だ。今まで外れた事がない、本能的な危機感ーー。

反射的に、身体が動いた。

視界の隅にアスター王子がそれよりも早く動き、抜刀しながら術を発動するのが見えた。無詠唱の魔術が発動するとほぼ同時に日光が遮られ、中庭全体に影が落ちる。

「ヴァオオオオオ!!」

黒い影ーードラゴンが、姿を現した。