マリア王女はひとしきり兄をからかって遊んだ後、唐突に言い出した。
「そういえば、ミリュエール。そなた愛馬が白馬じゃったな?」
「はい、アクアですね。今は妊娠中なので現役ではありませんが」
すると彼女はむふふと満面の笑みを向けてきたから、何が言いたいかはすぐに察せた。
「見たいのですね?」
「そうじゃ!白馬はめったに軍馬ではおらぬからのぅ。乗馬でもなかなか見ることはできぬ」
「確かに、珍しくはありますからね」
基本的に馬は鹿毛(かげ)という焦げ茶色の毛色が多く、他には金色に近い栗毛(くりげ)灰色の芦毛(あしげ)黒い青鹿毛(あおかげ)…が基本的な毛色。
稀に月毛と呼ばれるさらに金色が薄いような毛色もあるけれども、さらにめったに見られないのが全身白い白毛(しろげ)。
戦場では騎乗すると白くて目立つため、敵に見つかりやすくまた標的にされやすいために、騎士には白毛や芦毛は嫌われる。だからアクアが生まれた時に十歳のわたしがお父様にねだって貰い受けた。
本当に活躍するなら、毛色は関係ないと証明したくて。
乳飲み子だったころから、ずっとずっと一緒だった。
騎士になるなら、アクアとともに。彼女ならばきっと一流の騎馬になるはずなのだから。
アクアは注目されるのが大好きだけれども…。
あいにく、マリア王女は先にすべきことがある。
「……きっとアクアも喜ぶでしょうが、今はまずお部屋へ戻りましょうか。空いた時間があればまた改めてご案内させていただきます」
「なんじゃ、つまらぬのう…たまの息抜きくらいせよ、ミリュエール」



