【完結】捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?


「……やあ、ミリィとマリア。偶然だな」
「はい」

アスター王子はさり気なさを装っているらしいので、一応合わせておく。

「マリア王女殿下をお部屋へお送りしている最中です。アスター王子はどちらへ?」
「いや、そろそろ昼食の時間だからな。ミリィも腹が減ってないか?」
「そういえばそうでしたね。ですが、食堂は反対方向ですけれど?」
「よ、用事を済ませついでだ!」
「また、ずいぶんお忙しいんですね。ここで立ち話しているお暇があったら、早めに食堂に行かれては?」
「これくらいは大丈夫だ、うん!」
「そうですか、ではアスター王子。これを」

わたしはパグウェル司祭様からお預かりした書物を、アスター王子へ差し出した。
訝しげに受け取った彼は、表紙を見た瞬間にハッとした顔をしてすぐにページを捲る。

「……これは、古代ルーン語で書かれた魔術書。国宝クラスの貴重なものじゃないか。よく手に入れたな」
「僭越ながらあなたの事をパグウェル司祭様に相談させていただき、お借りする事ができました。少しでもお役に立てるならいいのですが」
「ああ……役立てるもの、なんてものじゃない。オレが知りたかった知識がこれほど詳細に書かれているとは……さすがパグウェル司祭」

興奮気味だからか、アスター王子は目を輝かせ頬が赤い。また、熱が出なきゃいいけれども。

「ありがとう、ミリィ。これを使えばなんとかなるかもしれない」

彼の子どものような無邪気な笑顔は初めてで、なぜか胸が小さく鳴った。

「いえ、お役に立てたならよかったです」