なるべく人が少なくなる中庭に面した渡り廊下に出てから、口を開いた。
「マリア殿下。おそらくわたしは、まだ恋というものを知りません」
そう話すと、案の定マリア王女は大きな目をこれ以上ないくらいに開いて唇を戦慄かせた。
「は、初恋もまだじゃと…?そなた、たしか15であったな?その年で初恋をしたことがないとは……信じられぬ!!」
マリア王女は両手を頬に当てて青ざめてらっしゃいますけど……そんなに驚く事かな?
「はい。ですが、事実ですから……エストアール家の人間はどうもそういった事には疎いみたいで…お父様も、20歳を過ぎてからでしたから」
両親の馴れ初めや、お父様の初恋がお母様だったとか言う話まではしなくていいだろう。
「それも信じられぬ!ミリュエール、そなたも同じなのか?」
「もしかしたらそうかもしれませんし、違うかもしれません。わたしはまだそういった自覚をした事が無いだけで、すでにしているかもしれません。
わたしとしては、恋は軽々しくするものではない…という思いがあります。
もちろん、その思いを他の人に強制するつもりはありません。わたしと同じように、それぞれの考えがあって当たり前ですから」
「ふむ……わかるような、わからぬような。まぁ、よい。では、ミリュエール。そなたは婚姻についてはどうじゃ?貴族令嬢である以上、他家との縁組の婚姻は避けられぬ。そなた今はアスター兄上の婚約者じゃが、本気で兄上と婚姻するつもりか?」
これは曖昧な答えは許されそうにないな、とマリア王女の眉間のシワを見て苦笑いをした。



