マリア王女を護衛がてら、王女殿下がたのお住まいであられる奥宮へ向かう。
原則として王子、王女の養育は乳母(うば)を始めとする専用の女官が担うから、誕生からご生母と過ごされる時間は少ない。
ソニア妃殿下だけは例外で、妃でありながら騎士として活動する時間以外はなるべくお手元で育てられたらしいのだけれども。
だから、王子も王女も幼いころよりご生母と離れて別宮でお暮らしだ。ずっとお母様と暮らしてきたわたしには信じられない環境だけれども。
回廊を渡る最中、それまでずっと黙り込んでいたマリア王女が、唐突に話しかけてきた。
「のう、ミリュエール。ちょっと疑問があるのじゃが…」
「はい、何でしょうか?」
何気なく訊いてきたから、大した質問ではないとたかを括ったせいかもしれない。
「そなた、初恋はいつじゃ?」
マリア王女の発した言葉が、すぐには理解出来なかったのは。
「……は?」
思わず訊き返そうかと思うほど、その質問の意図がわからない。
「なに、間が抜けた顔をしておる。初恋じゃ、初恋!人生で初めて人に恋することじゃ!」
「は……はい、知ってはいますが……なぜ、今その話をされるのですか?」
「わらわがしたいからじゃ!それ以外理由などない!」
「……はあ」
「なんじゃ、乗り気でないのう。恋バナじゃ、恋バナ!女子会とかいうのを、侍女はやっておるみたいじゃぞ!」
どうやらマリア王女は、侍女に影響されて真似事をされたいらしいけど…場所とか考えてほしいものですね。近衛兵やら侍女やら女官やら、たくさんの人々が行き交う場所でのそういうプライベート過ぎる話は、さすがに躊躇うのが普通でしょう。
まあ、この兄妹には通じないか…。