【完結】捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?


「エストアールさん」
「はい」

パグウェル司祭様に呼び止められると、一冊の本を手渡された。

ずっしりと重く、古びた背表紙はなめした皮でできている。書かれた文字は…パッと見わたしでは読めない。ゼイレームの言語であるタクル語ではないし、世界で広く使われるバフィーク語でもない。

「これは…?」
「古代ルーン語で書かれたものです。魔術に関するあらゆる事柄が書かれている…と、前の所有者より譲り受けるときにうかがいました。ただ、残念な事に魔力がある人間にしか視(み)えない文が多く、わたしの研究では限界がありまして。もしも、アスター殿下のお役に立てるならば、喜んで差し上げようと思います」
「そ、そんな貴重なものを……ありがとうございます!」

感激したわたしは素直に受け取り、パグウェル司祭様に深々と頭を下げた。きっとこれは、とてつもない価値があるものだと魔術に疎いわたしでもわかる。
本当はパグウェル司祭様もまだまだ研究されたいだろうに…こうして譲ってくださるご厚意を、わたしは無にはできない。

(きっと役立ててみせる…そして、パグウェル司祭様にその結果とともにお返しできるように頑張ろう!)

アスター王子の魔力制御がうまくいかない時期と、ドラゴンの出現時期は一致する。もしかしたら、この本の中にヒントがあるかもしれない。

逸る気持ちを抑えながら、マリア王女をお送りするためにパグウェル司祭様の部屋を辞した。