「なんじゃ、面白そうな話をしておるな?」
「わっ!?」
唐突に下から声が聴こえて目を向ければ、机の下から小さな女の子が這い出してきた。
赤茶けたブロンドの髪をしっかり巻いて結い上げ、派手な花の髪飾り。ゴールドに輝く瞳と白い肌。キツイ顔立ちはよく整っている。身体を包むのは、淡いピンク色の最上級のドレス。そして、その顔には見覚えがあった。
「マリア王女殿下!このような場所にいらしたんですか!?護衛騎士のカイル様がお探しでしょうに」
「ふん、わらわを探せぬ能なしは要らぬわ」
まだ9歳とは思えないほどキツイ言い方をしたマリア王女は、わたしより上質な椅子を引き寄せてパグウェル司祭様の横に座り込んだ。
「おやおや、また抜け出されたのですか?仕方ない王女様ですね」
「パグウェル、今日は綿菓子とこんぺいとうを持って来たぞ!東方の菓子だそうじゃ。どうだ、珍しかろう?」
パグウェル司祭様の様子からすれば、どうやらマリア王女様は頻繁にこちらへ来られてらっしゃるらしいけれども…。
「マリア殿下!お部屋にお戻りを。護衛騎士や侍従や侍女を困らせるものではありません!」
「……やれやれ…うるさいのぅ。異母兄(あにうえ)の婚約者だからと言うても、所詮、男爵令嬢の従騎士風情が王女相手に偉そうに言うでない」
「いいえ。アスター殿下の婚約者でなくとも、わたしは申し上げます。あなた様のすべき義務を果たされるために」
わたしは怯むことも臆することもなく、まっすぐマリア王女殿下を見据えて言い切った。
罰なんて怖くはない。彼女のためになることを、最善を考えて進言したのだから。



