夢を、見た。

真っ赤な灼熱の夢。

揺らめく空気のなかで、黒い影が咆哮した。



「……ん、熱い?」

ゆっくりと意識が浮上すると、全身が熱い気がする。
じりじりと焼けるような……?

(おかしいなあ…まだ5月にならないのに、こんなに暑い?)

不可思議に思いながらも、ふと、重みも感じる。
そして、鼻をくすぐるかぎ慣れた水のような香りは……!

ぱっちり、と目を開いて自分の身体に腕が巻き付いてるのを確認する。

それはいつものことだけれども……それ以上に衝撃的な事実が頭を真っ白にした。

「ぎゃああああああっ!アスター王子!なんでハダカなんですか!!しかも、なんでぼくを裸にして直に抱きついているんですか!!!変態ーーーっっ!!!」

どくわっしゃーん!!

一も二もなく、即アスター王子の身体をぶん投げた。素っ裸の彼は窓を突き破ってまた宿舎の通路に落ちていったけど、別に死にはしないだろうからいいや。

「ぎゃあああ!」
「は、裸のへ、変態男がいるぞ!捕まえろ!!」

近衛騎士らしき野太い悲鳴が上がって、ずいぶんと騒がしい大捕物が外で展開されていたようだけど…まあ、アスター王子なら大丈夫でしょう。

わたしの精神的苦痛を考えれば、まだまだ全然足りないくらいだ。

「……本気で腹立つ」

昨夜はきちんと寝間着のダルマティカを着ていたはず。なのに、朝起きたらシミーズのみの下着姿になってて……裸のアスター王子に抱きしめられていたなんて!ありえない。

いくら男勝りでも、羞恥心や恥を忘れた覚えはないんだから。