「……我に、開かせ給え!」
マリア王女の呪文が完成すると、彼女の周囲に魔法陣が展開される。
水色に輝くそれはあっという間に炎獄のケルンを取り囲み、足元に氷結のバリアが張られた。
それは、物理的に溶かせない魔力で出来た氷の膜。
アスター王子とマリア王女という魔力の強い、さらに血が繋がった兄妹2人が力を合わせたからこその、高難易度な魔術だった。
マリア王女の目論見通り、ケルンの動きがたちまち鈍くなる。
「……馬鹿な!」
呪術師が焦った声を出すけれども、きっとマリア王女の実力を侮っていたんだろう。狙うほどの魔力はあれど、わずか9歳の幼い少女になにができるのか、と。
マリア王女の聡明さや芯の通った性格ならば、ソニア妃のもとで相当な修業を積んだはずだ。こんな短期間で咄嗟にこれだけの大技を使えるならば、並大抵の努力ではできない。
「そんなマリア王女だから、わたしがお護りする甲斐があるんだ」
無意識にそう呟き、ランスを握る手に力を込める。
呪術師が、このまま終わらせるとは到底思えないからだ。
「くくくく……あははははっ!」
呪術師は可笑しそうに高笑いをする。
「所詮素人の浅知恵よ!神代よりの破壊者に、その程度で太刀打ちできると思うてか!さあ、ケルンよ!戒めを解き、今こそ真の姿ですべてを破壊するのじゃ!」
呪術師が高らかにそう告げると、ケルンの姿に変化が訪れる。
溶岩の人形が四つん這いになった後に首がぐんっと伸び、翼と尻尾と角が生える……つまり。炎のドラゴンの姿となったんだ。
そして、翼を羽ばたかせるとたちまち巨体が浮いた。



