「わたしは、騎士でエストアールの娘。アスター王子の婚約者、将来の王妃となる者だ!狙うならば、まずわたしにしなさい!」
呪術師へ向けて、精一杯の声で叫ぶ。
「あなたが過去にエストアール家となにがあったかはわたしは知らない。けれど、わたしから見れば今のあなたはただの犯罪者だ!国を恨むのも筋違い。もともと裏切ったのはあなたでしょう!!」
おそらく呪術師の恨みの根源に関わる言葉を、なるべく並べ立てた。煽って煽って……わたしを狙うように。
「あなたはエストアール家の娘であるわたしが捕まえる!覚悟しなさい!!」
「ブヒヒーン!」
わたしだけでなく、愛馬のアクアまで挑発してくれた。
べえっと舌を出して、完全に馬鹿にした笑みで。
……うん、そう言えば。アクアは挑発の天才だったわ。
「……おのれ、馬鹿にしおってええ!!!」
呪術師が逆上してブチ切れたのはたぶんわたしの言葉なんかよりも、アクアの小馬鹿にした顔だよね、絶対。
馬にまで馬鹿にされたら、大概の人は怒るでしょう。
地響きを上げながら、巨大ゴーレムがこちらへ接近する。ギリギリまで近づかせてから、アクアの横腹を蹴った。
「アクア、行くよ!鬼ごっこだ」
「ヒヒン!」
アクアが猛ダッシュをして、わざとゴーレムに接近する。踏みつぶすつもりか、片足を上げて振り下ろされた瞬間。そこをすり抜けた。
ギリギリでかわしてわざとスピードを下げると、「こちらだよ!」と叫ぶ。また、アクアも小馬鹿にした顔をする。
「おのれ…!」
案の定、巨大ゴーレムは反転してこちらを追い出した。



