ゆっくりと視線を戻すと、呪術師の老婆がこちらを睨みつけていた。
落ち窪んだ目は赤く輝き、炎のように燃えて見える。
「小癪な…!ユニコーンの仔馬ごときに、わしの邪魔はさせん!」
老婆が手を振りかざすと、再び四方八方から見えない圧力が襲い来る。けれども、しゃらん…と澄んだ音が響くと、地面からたちまち木が芽吹いてわたしの周りを取り囲む。
それは、かつてユニコーンが棲んでいた湖の……丘にあったガラスのベルが生った木。
ユニコーンが現れる度に鳴った懐かしい音がすべてに響き、成長していく木とともに空間を満たしていく。
しゃらん…しゃらん…しゃらん…
「な、なんだこの木は!?」
はじめて、呪術師の老婆から焦りとも狼狽ともとれる声が聞こえた。
たちまち大木に成長したガラスのベルの木は、攻撃している魔獣兵だけでなく、呪術師をもその中に閉じ込めていた。
「うう……」
枝に鳴った無数のガラスのベルが風に揺れて鳴る度に、呪術師は頭を抱え苦しみだした。
これは、チャンスだ。
アクアとユニコーン、そしてマリンがくれた呪術師を捕らえる貴重なチャンス。この機会を逃すわけにはいかない!
「ブラックドラゴン!聞こえる?」
『……ミリュエール、まだそちらへ力を十分には貸せぬ。慎重にゆけ』
「わかった!」
呪術師の呪縛が解けたおかげでブラックドラゴンの短剣より、再び魔力を感じることができる。
呪術師はまだレスター王子を捕らえたままだ。彼を救い出した上で、捕縛せねば!



