ようやく自分自身が王になると言ったということは、おそらくこの呪術師がフィアーナの副王だ。
今の今まで呪術師が副王に着いていると思っていたけれども、実際は自ら呪術師となりゼイレームへ度重なる小細工を仕掛けてきたんだ。
(だが…やつの恨みは逆恨みだ。自ら裏切っておいて、なんの正当性もない)
ゼイレームが2度も国土分割させられたのは、愚王と度重なる裏切りによるものだ。温暖で水資源が豊富で豊かな土壌を持つこの国を、周辺の国はよく狙う。特に北の国で資源に乏しいフィアーナとは、度々戦火を交えてきた。
フィアーナは世界的に見てもトップクラスの大国だ。
本気になれば、ゼイレームなどひとたまりもない。
ただ、所詮小国が集まった烏合の衆のような連合国家。副王の権力が強く一枚岩でない。
だからこそ、こういった副王が野望を抱く土壌がある。
(負けない……ゼイレームを裏切ったやつなんかに。わたしはゼイレームの盾となる騎士だ!)
動け、と自分の全身に命じる。たとえ血が失われようと、動ける限り戦う。それがわたしの使命だ。
(全身を動かせ!対抗しろ!!わたしは……負けない!)
「く……あああ…っ!」
全身全霊の力全で、抗った。
視界は霞み手足は動かず……でも。
わたしは、負けるわけにはいかないから。
「……なにッ!?これを跳ね返しおったか……ならば!」
「ぐっ!」
より強い圧力に、押しつぶされた。
なんとか跳ね返そうと、試みた刹那……
こころの中に、澄んだ声が響いた。
『……ミリュエール、もう大丈夫ダヨ』