ゆっくりと木の幹が溶けて形を取る。

それは、ローブを纏った人のかたちへ。

「レスター王子!今すぐ離れて!!」

勢いよく彼に向けて飛び込み、引き剥がそうと身体ごと突っ込んだ。でも、そのまま弾き飛ばされてしまった。

血のように紅いフード付きのローブを纏ったのは、白髪の老婆。ずいぶん深い皺が刻まれていて、肌は灰色。落ち窪んだ目は赤く爛々と光っていた。

「……ずいぶんやってくれたじゃないか、エストアールの娘よ」

しわがれた、錆びた鉄が軋んだような不愉快極まりないだみ声。その声を聴いただけで心臓が嫌な音を立てて跳ね上がり、全身が痺れ震えそうになる。

でも、とわたしは着地したその場で短剣を構え、老婆に問いかけた。

「あなたは……フィアーナの呪術師ね?今までこちらへ何度も呪いをかけてきたでしょう!?」
「ふん」

老婆はレスター王子を抱きかかえると、そのままふわりと飛び上がる。偉大な魔術師は空も飛べると聞くけど、それはつまりこの呪術師がとんでもない実力を持つ魔術師ということだ。

「もともとはあたしがこの国を統べるのが正しい歴史なんだからね。エストアールなぞ、間違った王家に着いた裏切り者。おまえが邪魔しなければ、とっくに乗っ取れていたものを!」

ふわ、っといきなり身体が浮いてそのまま空中で拘束された。見えない縄で身体じゅう固く縛り付けられたみたいに、身動がとれない。

「……まずは、おまえを血祭りにあげてやる。それから王宮すべての奴らを皆殺しだ。この王子を傀儡の王に仕立てればいい…ああ、楽しみだ。200年に渡る積年の恨み、今こそ復讐の時だ!」

老婆は高笑いを上げながら、スッと腕を上げる。

そして、わたしの身体から血が噴き出した。