その日の夜、わたしはお父様がいらっしゃる近衛騎士団の副団長室にいた。
今日のアスター王子は多忙で、朝に顔を合わせたくらいでそれからお会いしてない。だから、問い詰めることもできずにモヤモヤを抱えたままお父様と相対していた。
お父様の茶色い髪の中の白髪は一年前より増えてるし、青い瞳は迷いがあることをはっきり告げている。少なくとも娘のわたしの事でご心労をお掛けしているだろうし、申し訳なく思う。
「ソニア妃殿下から、私と妻にお招きがあった」
「はい」
執務机の椅子に座り招待状を手にしたお父様が困惑するほど、ソニア妃の行動は素早かった。通常王族からの招待状は複雑な手続きが必要で、だからこそ日数がかかるのに。さすがアスター王子の御母上様だ。
「王宮の御使者が直に遣わされての招待だ。断る事などできないが……おそらく、内容からすればアスター殿下との結婚に向けての話し合いだろう」
「……はい」
だが、とお父様はソニア妃の紋章が入った招待状の封筒を机の上に置き、両手を組んでわたしをまっすぐに見据えられた。
「ミリィ」
「はい」
「おまえは、アスター殿下と本気で結婚する気はあるのか?この話し合いに応じれば、少なくとも婚約式に向けて動き出す。半年以内に御婚約の儀が行われることになるぞ?」
ずいぶんとストレートに訊かれるけど、エストアール家の人間は回りくどい言い方は嫌いだ。だから、わたしも素直に自分の思いを口にする。
「お父様、正直な気持ち…わたしはまだ結婚など考えられません。騎士見習いとなってまだ1年。従騎士としても、まだまだ未熟ですので」



