わたしがまっすぐに見上げたからか、アスター王子はほんのりと頬を赤らめる。そして、小さな声でつぶやいた。

「い、いや……ミリィのためだ。それくらい……上司であり婚約者であるオレにはあたりまえだ」

相変わらず、ストレートな表現ができない不器用なひと。
思わずクスッと笑ってしまう。

「な、なにがおかしい?」

すぐにむきになる子どもっぽいところも相変わらずだ。
こんなふうにアスター王子が素になるのは、わたしが知る限り御母上様やピッツァさん等の少数の人のみ。
わたしの前では思いっきり本来の自分を出してくれている。
本当に些細な事かもしれないけれども、それが何よりも嬉しかった。

「……いえ、いつもアスター王子にはいつも助けてもらっていますから。色々な意味で。本当にありがとうございます」

わたしが改めてお礼を言うと、彼はさらに頬を赤らめてなぜか空咳をし始めた。

「あー…ゴホン。そ、そうだな…だが、別に大したことはしてないゴホン!…あ、ちょっと風邪ひいたかもな。ミリィに悪いから離れておく」

不自然なほどの空咳を盾にして、退場しようとする。その純情さもなんだかかわいらしい。

でも……

わたしはベッドから片足を出し、そっと床を踏んでみる。
うん、3日眠っていたけれども、筋力はさほど衰えてない。普通に歩けそうだ。

「ミリィ!まだ起きるな。母上たちの魔術で治癒したが、ひどい火傷だったんだぞ?」

やっぱり、アスター王子は心配して駆けつけてくださる。少しだけ蹌踉めいたわたしの体を支えてくれた彼に、お礼を言う前に……


自分から、軽いキスをしてみた。