（お母様とお父様を呼ばれるとおっしゃるけど……うーん…）
近衛騎士団の宿舎で剣の手入れをしながら悩む。
ソニア妃とピッツァさんはノリノリだったけど、確かに婚約したのに両家の顔合わせが未だに無いのは不自然だよね。
ただ、アスター王子は貴族ではなく王族。しかも王位継承権のある王子様だ。
通常王位継承順位は生まれた順番で決まるけど、ここゼイレーム王国の王室典範では継承順位を国王陛下が定められる。だから、先に生まれたから有利だとか長子だから１位だとか、そんなことはない。
何代か前にぽんこつな王子様が国王陛下になられて国内外が混乱し隣国と戦争になり、停戦条約で領土を３割ほど割譲させられたから…らしいけど。
確かに、レスター王子が国王になったら同じことが再現されそうだ。
冷静に考えて…もしも、アスター王子が国王陛下になられて…仮にわたしが結婚としても、正妃に…つまり王妃には無理だ。男爵令嬢…しかも過去に婚約破棄された瑕疵がある。
ローズ様のおっしゃる通り。とても皆は納得しないだろうな。
貴族、ましてや王族の結婚は決まりました、ではすぐ結婚し暮らしましょうと簡単にはいかない。
様々な取り決めを事前に決めなくてはいけない。
特に家を継承する者同士ならば、財産権の取り扱い、子どもが生まれた場合の跡取りのこと等々…。
（本気で結婚するつもりなら、とっくに顔合わせも話し合いも済ませてる。やっぱりアスター王子は本気じゃないよ）
なぜだか、胸にさみしいような、悔しいような。複雑な気持ちが湧いてきた。
